返禮




賢治を慕う女の人がありました。勿論賢治はその人をどうしやうとも考へませんでした。 その女の人が賢治を慕ふのあまり、毎日何かを持つて訪ねました。 當時は羅須地人協會にたつた一人の生活をして居られたのですから、女の人も訪ねるには都合がよかつたでせう。 他の人にものを與へることは好きでも、他から貰ふことは極力嫌つた賢治ですから、 その女の人から食物とか花とか色んなものを貰ふたびに、賢治はどんなに恐縮したことでせう。 そしてそのたびに何かを返禮してた樣です。 そこで手元にあるものは何品にかまはず返禮したのですが、その中には本などは勿論、 布團の樣なものもあつたさうです。 女の人が布團を貰つてから益々賢治思慕の念をつよめたといふ話もあります。 後で賢治は其の事のために多少中傷されました。

[関登久也・真日本社「宮沢賢治素描」P205より・1947年]