女人




或る女の人が賢治を非常に慕ひ、しばしば協會を訪れました。 最初のうちは賢治も仲々しつかりした人だ、といつて居りましたが、 段々女の人が大變な熱をかけてくるので隨分困つてしまつたやうです。 「本日不在」といふ張紙を貼つて置いたり、或ひは別な部屋にかくれて、 なるべく逢はないやうにしたりしてゐたのですが、 さうすればする程いよいよ拍車をかけてくるので、しまひには賢治も怒つてしまひ、 その女の人に辛くあたつた樣です。 大きな願望を以て森の中に独居し、晝夜を分たぬ努力奮勵をしてゐた賢治が、 一女人のために勿論身をあやまるやうなことはないにしても、苦しまれたことは事實です。 (略)

[関登久也・真日本社「宮沢賢治素描」P202〜P203より・1947年]